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「電子ブック」から新たなブランド構築の段階へ――ジャパンイーブックス活用研究会に聞く

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当ブログではこれまで、地域の印刷会社が自治体広報や観光パンフなどを集めて電子ブックで発信する「イーブックス」について何度かご紹介してきましたが、全国各地のイーブックスの連携によって新たなブランド価値を生み出そうとしているのが「ジャパンイーブックス活用研究会」です。同事務局長の高橋邦男さんに、ジャパンイーブックスとしての取り組みと今後の展望について聞きました。

お話を伺った、ジャパンイーブックス活用研究会事務局長の高橋邦男さん

ジャパンイーブックスは、各都道府県の電子書籍ポータルサイト(「○○イーブックス」)を運営する印刷会社が加盟している全国ネットワークです(過去記事「電子書籍の枠を超えた!全国の印刷会社が集う「ジャパンイーブックス」」もぜひ参照して下さい)。「ジャパンイーブックス活用研究会」は、技術提供や情報共有などさまざまな面で全国のイーブックスをサポートしつつ、「ジャパンイーブックス」全体としてのブランド価値を高める役割を担っています。

2017年2月にオープンした「高知イーブックス

ジャパンイーブックスは2012年の「宮崎イーブックス」の立ち上げから始まり、今年で5年目を迎えます。この2月には「高知イーブックス」が正式オープンし、全都道府県の半数にまで「イーブックス」の輪が広がってきました。それぞれのイーブックスを運営しているのは地域の印刷会社で「電子ブックで地域の情報を発信する」という共通の目標に挑みながら、さまざまなビジネスチャンスを広げています。

理想としていた地域間の交流・連携が現実に

ーージャパンイーブックスの構想が立ち上がって5年目の今年、高知イーブックスのオープンで全国の半分にまでイーブックスが広がってきました。
高橋 印刷業界が従来の受託ビジネスからの転換を求められている今の時代、どんな印刷会社にも遅かれ早かれ新しいビジネスに挑戦せざるを得ない状況がやってくるわけですが、私たちは「電子ブックで地域の情報を発信する」という公益性の高いサービスを通じて、比較的早い時期からさまざまなチャレンジや「生みの苦しみ」を経験してきました。
ジャパンイーブックスの事務局を設置して3年目になりますが、各地のイーブックス同士がノウハウを分かち合ったり、お互いの成功のために協力し合うといった理想的な連携の形が見えてきた。この点が大きな成果だと考えています。

全国の「イーブックス」運営者が集まる「情報交換会」では、現場のスタッフ同士でノウハウや経験を共有。

ーー全国のメンバーが集まる「情報交換会」や、地方単位での「ブロック会議」を開催しているほか、Webサイトやアプリなどの技術や、企画提案のためのプレゼン方法や資料なども共有していると伺いました。他にはどのような連携をしているのでしょうか?
高橋 ジャパンイーブックスのメンバー専用のSNSを開設して、普段からリアルタイムに情報交換ができるようにしています。最近では「ドローンの部屋」、「360度カメラお部屋」などのチャットルームがかなり盛り上がっているようです(笑)。
九州では、宮崎と大分のデザインチーム同士が交流するイベントが行われましたし、茨城で獲得した案件を栃木が技術面で支援する、といった形のコラボレーションも生まれています。地方の印刷会社同士が交流すること自体珍しいと思うのですが、それぞれの現場で日々試行錯誤しているスタッフ同士で深い絆が生まれていることは、とても貴重なことだと思います。

電子ブックで「自治体広報」のあり方も提起

一ー宮崎イーブックスを運営する株式会社宮崎南印刷さんは宮崎市と官民協働で、2014年5月号から2017年4月号まで広報紙の企画編集に携わってきましたが、宮崎イーブックス内に特設サイト(2017年3月まで公開)を作って電子ブックとしても読めるようにしたほか、Webアンケートで読者の声をキャッチする仕組みを作って、紙面づくりに反映させる取り組みをされましたね。
高橋 電子ブックでも配信したことで、「どの記事がどれくらい読まれているか」といった詳細なデータが取れるようになりましたし、Webアンケートを導入したことで読者層のセグメントや志向性が把握できるようになりました。
そうすると、紙面においてもより一歩踏み込んだテーマの特集を組む、といったチャレンジが可能になってきます。例えば、昨年7月には『マイナス5万人の衝撃!!』と題し、このまま人口減少が進んでしまった場合の未来を具体的に示し、今取り組んでいる対策を紹介する特集を組みました。紙面にはたくさんの読者から感想を寄せていただきましたし、地元テレビでも取り上げられるなど、大きな反響がありました。


『市広報みやざき』2016年7月号の「マイナス5万人の衝撃!!」特集

ーー広報紙に届く読者の感想は、市民が普段の生活のなかで抱いている関心や喜び、悩みといった「生の声」だと思います。そんな生の声が集まる場は、市にとっても貴重な情報源なのではないでしょうか?
高橋 「市民にどんな情報を発信していくべきか?」というのは、行政にとって常に悩むところだと思いますので、広報紙を通じて一定の回答ができるというのは非常に大きいのではと思います。また、「宮崎市の広報紙について詳しく知りたい」と、他の自治体から問い合わせがあるなど、宮崎市が全国から注目される一つのきっかけにもなりました。

ーー宮崎に続いて佐賀イーブックスでも、佐賀市の広報紙や読者の声が閲覧できる特設サイトが開設されました。イーブックスが広報紙の制作や発信に関わる事例は、これからも他の都道府県に広がっていく可能性がありますか?
高橋 昨年12月には奈良イーブックスの主催で、周辺自治体の広報担当者を招いて「活かす広報紙づくりミーティング」を開催しました。いまの自治体の広報活動は印刷物やWebサイトに動画やアプリなど、運営する媒体が増えていますので、広報担当者の負担もますます大きくなっています。そこの部分を、媒体表現のノウハウを持ち、地元の情報を知り尽くしている印刷会社がお手伝いするチャンスはきっとあるはずです。

佐賀イーブックス内に開設された、「市報さが」の特設サイト。デザイン制作には宮崎イーブックスが協力している

「市報さが」特設サイトでは、毎号読者から寄せられた感想を掲載

ジャパンイーブックスの「顔」となる新ビジネスを模索

ーー各地の取り組みでは、岡山イーブックスが岡山県とPR協定を結んだり、北海道イーブックスが(宮崎の事例に続いて)自治体の「デジタルアーカイブ事業」を受注したり、奈良イーブックスが奈良県の公式アプリを手がけるなど、画期的な成果が次々と生まれて、ジャパンイーブックスとしてのブランド価値がますます高まってきていると思います。今後はどんな課題があるでしょうか?

高橋 事務局を立ち上げて2年の間に、ジャパンイーブックス内での情報交換や実績・ノウハウなどを共有する仕組みを作ることができましたので、それを土台として全国の総合力を生かしたビジネスに発展させていく必要があると考えています。それは、メンバーの間から生まれてくる形と、外部との連携により実現させる形のどちらも可能性があると思っています。

ーー他業種の企業・団体などとのコラボレーションも視野に入れているということでしょうか?
高橋 以前から、ジャパンイーブックスは印刷業以外の業種の方々からも関心を持っていただいていることが分かっていましたので、2016年9月に開催した「JAM2016」に出版社、システム開発、電子書籍取次などさまざまな業界からゲストをお招きしました。今後もこうした交流を深めるなかで新たなビジネスの種が生まれればと期待しています。

2016年9月に東京で開催された「JAM2016」には、他業種の企業からゲストスピーカーを招待。

ーー例えば、他業種の方々がジャパンイーブックスと協業する場合、どんなメリットが考えられますでしょうか?
高橋 新たな事業を立ち上げるのに、一から全国に拠点を作ってくというのは大変な労力やリスクが伴います。地域に根ざし、地元の情報をたっぷり持っている印刷会社がい互いに連携しているジャパンイーブックスは、「提携する相手として魅力的に映る」との声もいただいています。
ジャパンイーブックスは電子ブックを使った情報発信に軸足を置いたビジネスのネットワークですが、新しいビジネスは全く違った名前でも構わないと思います。たとえニッチであっても確実に手応えのあるマーケットを形にして、ジャパンイーブックスの新たな「顔」になるブランドの構築にチャレンジしていきたいですね。

2017年2月には、印刷業界の展示イベント「page2017」にジャパンイーブックスのブースを出展

ジャパンイーブックスは現在、24の都道府県の印刷会社が加盟していますが、それら以外の地域からの新規加盟も受け付けています。ぜひ一度、公式サイトから各地のイーブックスを見ていただけばと思います!

●ジャパンイーブックス活用研究会
http://www.japan-ebooks.jp/


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佐藤勝

佐藤 勝Writer

ライター/編集者/何でも屋。トマトが好物。IT、Web、デザイン、アート、映像などクリエイティブ関連の記事や企業のコンテンツなど、文字を書く仕事を中心に、色々やらせていただいております。

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