北海道イーブックス訪問――理想は「公的情報」と「アウトドア」を発信するポータルサイト
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日本の各都道府県の広報誌、観光パンフレットをWebブラウザやアプリで閲覧できるポータルサイトを各都道府県で展開する「ジャパンイーブックス」。デジタルカタログを地域の情報発信に活用する事例として、当ブログでもたびたび紹介してきました。そのなかでも、北海道の電子書籍に特化したポータルサイト「北海道イーブックス」の運営チームを訪問する機会がありました。観光立国であり、日本国内最多の自治体数をもつ北海道での取り組みは、どんなやりがいや苦労があるのでしょうか?
まずは北海道の全自治体の情報を揃えたい
北海道イーブックスは、2014年末にオープン。北海道各地の自治体広報や観光案内、学校案内、イベント情報などの冊子をPC、スマートフォン・タブレットで無料閲覧できるサイトです。
近年は年間5000万人規模の観光客が訪れている北海道だけに、現地で入手できる詳細な観光・イベント情報冊子が道外でも無料で見られるというのは、道外からやってくる観光客にとっては嬉しいサービスです。
また、広報誌は地域住民の生活に必要な情報源の一つ。北海道内の人びとにとってもメリットは大きいでしょう。
北海道イーブックスを運営するのは、札幌市の印刷会社、須田製版内に設立された実行委員会。推進委員として活動している今野裕二さんにお話を伺いました。
須田製版さんは1923年創業の老舗印刷会社。チラシ、ポスター、冊子などを含む総合印刷が主な事業ですが、北海道イーブックスを立ち上げるきっかけは何だったのでしょうか?
「2013年に創業90週年を迎え、会社はこれからどのような方向に進んでいくべきかを皆で考える機会がありました。私はその時、新しいことやるならやはり、地元・北海道に寄与できるものに取り組みたいと思い、CSR活動の一環としてイーブックスを北海道で立ち上げることを提案したのです」
今野さんはJAPAN ebooks事務局と相談しつつプランを作成。社内提案から1年近く議論したといいます。
「印刷だけにとどまらず、デジタルサイネージなどの分野にも進出しつつある時期でしたので、より付加価値のあるサービスを創り出すという問題意識が広がり、実現への後押しにつながりましたね」
北海道イーブックスは取材時点(2016年7月)で、102の市町村の広報や観光情報などを掲載。それぞれの最新号なども随時追加され、北海道の情報サイトとしても屈指の情報量を備えています。それでもやはり、広い北海道ならではの課題に直面しています。
「北海道内には全部で179の自治体があり、全ての自治体と契約して情報を掲載できるようになるまでには、まだまだ長い道のりがあります。北海道という土地の広さもネックになっていて、遠方の自治体へはなかなか簡単に出かけられず、きめ細かな対応をしていくのが難しい現状です」
例えば、札幌から道東の網走までは、車で約5時間以上。こうした地理的な条件のなかで、多くの自治体を訪れて北海道イーブックスへの冊子掲載を働きかけるのは相当な労力が必要になりそうです。
「もう一つの課題が検索性の向上です。掲載自治体が多く、コンテンツが膨大なので、一つ一つに正確なタグづけをしていくのに人手が足りない状態です。そうした課題はあるにせよ、地道に努力していって、北海道の全エリアをカバーするメディアにするのが当面の目標ですね」と今野さんは話します。
電子書籍発信で新しいつながりが広がった
サイト開設から約2年、北海道イーブックスは道内の市町村の電子書籍にとどまらず、道内の大学・専門学校・高校の入学案内などをまとめた「学校ebooks」、道内各自治体のふるさと納税の案内やカタログが見られる「ふるさと納税ebooks」、北海道立文書館の広報バックナンバーを収録した「赤れんが」など多彩なコンテンツが加わり、さまざまな切り口で地域の情報を紹介するポータルサイトに成長しています。
「この2年間、自治体への紹介や提案に時間とエネルギーの大半を費やしてきました。当初は広報だけの掲載がほとんどでしたが、観光パンフを掲載してくれるところも増えて、各自治体の観光課との窓口も広がったのが大きな収穫でした。ある自治体の広報担当の方は、イーブックスで他の自治体の冊子を見て、広報誌の編集・デザインの参考にしているそうです」
最近では、北海道と青森県の自治体、観光事業者とJRが合同で企画する「デスティネーションキャンペーン」のコラボ特集ページを開設し、注目を集めています。
デスティネーションキャンペーンの特集ページは、公式ガイドブックをはじめ、北海道の道南エリアと青森の見どころを紹介する冊子や動画などのコンテンツをまとめて閲覧できるもの。開業したばかりの北海道新幹線を利用した旅行に便利な情報ページになっています。
「思い切って北海道庁に働きかけたことで、キャンペーンに関連するパンフレットを集めてもらうことができました。イーブックスを始めたことで、今までつながりのなかったところにも、お話を聞いていただけるきっかけができるようになりましたね」
地域の「記憶」を後世に…デジタルアーカイブ事業
全国のイーブックスに共通ですが、「イーブックス単体では収益をあげられない」という大きな課題があります。北海道イーブックスの場合は、それをどのように乗り越えようとしているのでしょうか?
「イーブックスの仕組みをベースに、自治体の広報誌を創刊から収録し、電子書籍として閲覧できるようにする『デジタルアーカイブ』の提案に力を入れています。大規模な仕事となるのでなかなか簡単には受注できなかったのですが、道東の小清水町から初めて発注をいただいたことで、他の自治体からも問い合わせをいただいています。2015年に茨城県で発生した水害のニュースを受けて、『地域の貴重な資料をデジタルで保存したい』というニーズが高まっているようです」
(宮崎県高鍋町のデジタルアーカイブ。宮崎イーブックスで実現)
地域の広報誌は、その土地の「記憶」そのもの。デジタルアーカイブで誰でも無料で見られるようになれば、住民にとって大きなメリットになるのはもちろん、歴史研究の資料としても大いに活用できそうです。
そして、デジタルアーカイブの受注で一定の収益が確保できれば、北海道イーブックスの活動を継続し、より充実したサイトに成長させることが可能になるというわけです。
実現したい「北海道のアウトドア」イーブックス
最後に、北海道イーブックスの取り組みについて、今野さん個人としての思いも聞かせてもらいました。
「20代の頃からアラスカやカナダで登山、スキー、カヤック三昧の生活をしていて、帰国後は東京でアウトドア関連雑誌の企画や編集をやっていました。須田製版に入社して以来、北海道の自然とそこで行われるアウトドア活動に関する雑誌を立ち上げるのがひとつの目標でした。イーブックスをやることが決まった時、密かに『北海道の自然とアウトドア』イーブックスも作ろうと考えていたのです」
今野さんのアウトドア活動への情熱は、北海道の山の魅力を伝えるオリジナルコンテンツ「Hokkaido yo-ho」で少しずつ実現しつつあります。
(「Hokkaido yo-ho」)
「社内でアウトドアが好きなスタッフがいて、彼らと一緒に大雪登山の映像などを制作したのです。道内の経済状況、印刷業界を取り巻く状況から雑誌の発行は現実味が薄れてきましたが、アウトドア版イーブックス実現の可能性は非常に大きいと考えています。今は北海道イーブックスの認知度をもっと高めていく必要がありますので、アクセスを増やすためのコンテンツとしても『アウトドア』は適切と考えています。いずれは、北海道の観光情報だけでなく、北海道での登山やカヤック、フィッシングのためのフィールド情報も入手できる…そんな風に活用されるイーブックスにできたらいいなと考えています」
他の地域にはない独特の大自然や観光資源を抱え、国内外の観光客を引きつけてやまない北海道。アウトドア活動も各地でさかんに行われています。
観光や移住・定住、地域おこし、まちづくり、ものづくり、地域ブランディングなどの「公的情報」を発信するイーブックスに「北海道の自然とアウトドア」が加われば、さらに多くの人に北海道の魅力を伝えるメディアになるはずです。北海道イーブックスの今後に期待せずにはいられません。
■北海道イーブックス
http://www.hokkaido-ebooks.jp/
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