ホテルの客室がアートに?日本画家の原こなみさん、アーティスト・イン・ホテルで制作
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アーティストがホテルに滞在しながら客室をアート作品にしてしまう「アーティスト・イン・ホテル」という企画が、東京・汐留のパークホテル東京で進められています。すでに完成した部屋は実際に宿泊でき、国内外の利用客に大好評。現在、そのなかの1部屋で制作中のアーティスト・原こなみさんを訪ねました。
「アーティスト・イン・ホテル」を実施しているパークホテル東京は、洗練されたデザインと上質なホスピタリティが特徴の都市型ホテル。開業10年目となる2013年からは、空間(Atrium)、食(Restaurant)、旅(Travel)のそれぞれのシーンで日本の美意識を感じられるアートを取り入れるという、新たなコンセプトを掲げています。
ロビー階のアトリウムでは、アートの展覧会やプロジェクションマッピングなどのイベントが随時開催されていて、チェックインする瞬間から感性を刺激してくれそうです。
同ホテルのもう一つの魅力は、東京タワーが間近に見られる、眺望の美しさ。オレンジ色に輝く東京タワーの夜景は素晴らしいです。
日本の美意識をテーマに、1フロアの全部屋を改装
このパークホテル東京が実施している「アーティスト・イン・ホテル」というプロジェクトは、31階の全部屋をアーティストに装飾してもらうというもの。同ホテルの「日本の美意識が体感できる時空間」というコンセプトにのっとり、作品はすべて日本の文化や風物などをテーマにしています。
すでに完成した作品の一部を見てみましょう。
かなり大胆な空間づくりがされているのが感じられますね!
アーティストを地域に招き、そこに滞在しながら作品を制作してもらう「アーティスト・イン・レジデンス」という取り組みは世界各地にありますが、1フロアの全ての部屋をアート作品にするというのは、かなり独特の企画といえそうです。
日本画の伝統技法で、「非日常」の空間を作りたい
原こなみさんは、日本画の技法や素材を独自に進化させた表現手法で活動しているアーティスト。以前の記事:アート作品がバーカウンターになって大好評。竹ノ塚の「Bar Sora [宇宙]」 でも登場いただいています。
原さんは知人を通じて「アーティスト・イン・ホテル」の企画を知り、「ぜひ自分もやってみたい!」と応募。選考の結果、2016年4月からの制作が決定しました。
制作中の部屋を見せてもらいました。写真はベッドの枕側の壁面です。
原さんの作品のテーマは「侘び寂び」。
ご覧のように、壁面が青く塗られていますが、実はこれ、絵の下地になる部分で、ここから一面に銀箔が貼られていく予定なのです。
「日本画の伝統技法の一つに箔(はく)があるんですが、銀の箔に薬品をかけて硫化させると、赤や茶色、青などさまざまな色に変化していって、まるで小宇宙のような魅力があるんです。それを部屋一面に展開させて、部屋に滞在する人が”非日常”を感じる空間にできたら、と考えたんです」
取材時の段階では、モチーフを配置し、青色の下地をほぼ塗り終えた段階。
白い岩のようにも見えるモチーフは、いったい何を描いているのでしょうか?
「京都の龍安寺にある枯山水の石庭を描いています。この庭に込められた禅宗の思想はとても奥が深いのですが、石庭は『侘び寂び』という言葉や、銀箔の神秘さに結びつくモチーフとしてふさわしいと思ったのです」
龍安寺の石庭になぞらえて、モチーフの数は15個。ですが、実際は石ではなく、原さんがここ数年の作品で主題に描き続けている「流木」になっています。石庭の白砂に描かれる砂紋も、塗料に立体感をつけて再現しているのが分かります。
「流木も銀箔の色の変化と同じように、人為的に操作できない自然の美しさを感じさせる素材です。龍安寺の庭にある15個の石は、どの角度から見ても必ず1個が隠れて見えないようになっているんですが、それにならって、この部屋でも1個だけ流木をどこかに隠しているんですよ」
見えない流木はどこに隠されているか?
実際に泊まった方はぜひ探していただきたいです。
部屋に夕陽が差し込んだ時、どんなミラクルが?
ロウ引き済みのあかし紙を箔に重ね、箔挟みを使って密着させます。
箔糊を塗った壁面に持って行って貼り付けます!
箔の取り扱いはとてもデリケートで、ちょっとした風や手の震えなどで、箔がめくれたり間違ったところにくっついたりしてしまいます。「夏場の作業でもエアコンが使えないのが辛いところです」と原さん。
こうして部屋全体がさまざまな色変化を見せる箔に囲まれた時、いったいどんな空間になるのでしょうか?
「部屋に差し込んだ夕陽や、東京タワーのオレンジ色の光が箔に反射して輝いたら、どんな輝きになるだろうかと、とても楽しみです。チェックインしたお客さまが部屋に入った時に、そんなミラクルが生まれたら素敵だな、と思っています」
作品のなかでアーティストが生活する
アーティスト・イン・ホテルの製作期間中は、ホテルから宿泊場所や食事などが提供され、制作面でもさまざまなサポートが受けられます。原さんは現在、生活のほぼ全ての時間をホテルで過ごしているといいます。
「自分のアトリエで作品づくりをしている時は、日常の時間と作品制作の時間を行き来しているような感じでしたが、今は作品が完成するまでは日常に戻れないくらい集中していて、作品のなかで生活しているような感覚です。部屋全体がキャンバスになると作業量も多く、体力的にハードになりがちですので、ホテル内でゆっくり休めるのはありがたいですね」
極度に集中している時はホテルから一歩も外に出ない日もあるとか。朝ベッドで目覚めた瞬間にアイデアがひらめくこともあるそうです。
「実際に泊まれる部屋を作品にするので、お客さんにもっと分かりやすいように表現した方がいいか、自分の世界観を出しすぎて大丈夫だろうか…と、悩んだ部分もあったのですが、ホテルの方からは『自分の表現したいように、自由に楽しみながら作って下さい』とおっしゃっていただいたので、安心して作品づくりができています。作品づくりのための細かい要望にもできる限り応えて下さって……。皆さんのアーティストへのリスペクトが感じられます」
アーティストへの手厚いサポートの理由についてホテルの広報の方に聞いてみたところ、次のように答えていただきました。
「アーティストの方には、実際にホテルに滞在するなかで生まれるインスピレーションをもとに制作していただききたいのです。そのため、ホテルライフを満喫しながら思う存分力を発揮していただけるよう、いろいろな特典を設けております。アーティスト・イン・ホテルは、アーティストにとっては発表の場であると同時に、私たちにとっても他のホテルにはない差別化を図るという点で、お互いに有益なのです」
大胆で個性的な部屋が生み出される背景の一つに、こうしたアーティストとホテルの対等なコラボレーション関係があるといえそうです。制作が進んでいる原さんのアーティストルームも、完成が楽しみなところです。
「パークホテル東京に宿泊される方の多くは、ホテル全体から感じられる『日本の美』にきっと共感されると思います。私も、日本の伝統的な素材や技法から新しい魅力や可能性を引き出して表現したい。この部屋に泊まる方に、非日常・非現実の空間を楽しんでいただけたら嬉しいです」と、原さんは語ります。
アーティスト・イン・ホテルの各作品は、実際に宿泊可能です。問い合わせ・予約はお電話(03-6252-1100)で。Webサイトから予約できるプランもあります。興味のある方はぜひ、チェックしてみて下さいね。
■パークホテル東京
http://www.parkhoteltokyo.com/
■アーティスト・イン・ホテル
http://www.parkhoteltokyo.com/artcolours/aih.html
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