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デザイン・アート

アーティストが飲食店の空間づくりを演出。「焼き肉家 益市」× 書家・HILOKI

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「ビジネスに役立つアート&デザイン」。
こんなタイトルで始まった当ブログも、スタートから1カ月あまりが過ぎました。開設当初からぜひ取り上げたかったテーマが、「企業とアーティストのコラボーレーション」でした。今回はその実例をご紹介すべく、京都に取材に出かけてきました。

京都で7店舗を展開する焼肉レストラン「益市」。味のプロフェッショナルとして、料理に妥協を許さないのはもちろん、空間デザインも店舗ごとに独自のコンセプトを追求しています。そんなお店の空間づくりに、1人のアーティストが深く関わっています。

彼の名は、HILOKI。京都出身の書家、墨のアーティスト。
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7歳から書を始め、「墨集団翔Sho」主宰の祥洲氏に師事し、2009年から本格的に活動を開始。中国伝統の書を基礎に、自ら開発したオリジナル墨を使った文字作品・非文字作品の数々を生み出しています。京都と東京を中心に国内外で展覧会活動を行うほか、ミュージシャンとのコラボレーションやパフォーマンスアートなど、より幅広い表現に挑戦する、気鋭のアーティストです。

この仕事のきっかけは、2010年の年明けに京都のホテルで開催した「HILOKI個展scene2」(2010年1月1日〜1月22日、京都東急ホテル)でした。
展示を見た友人がその内容をブログで紹介。その記事を見た「益市」の国本忠義社長から、「新たに立ち上げる新店舗に、作品を提供してくれないか」と依頼がありました。

社長自らの打診に驚いたHILOKIさんでしたが、さっそく社長に直接お会いして打ち合わせを実施。
「これからオープンする店で『益市』は5店舗になるけれど、目指す道のりはまだまだこれから。店を増やすだけなら、次々と増やすことはできるが、あえてそれはしない。一つ一つ『本物』の店をしっかりと作って、前へ進んでいきたい…そんな社長の思いに自分もすごく共感しました」

作品を提供することになった新店舗「焼き肉家 益市 堺町錦」

作品を提供することになった新店舗「焼き肉家 益市 堺町錦」

国本社長と意気投合したHILOKIさんは、個展で展示した作品だけでなく、お店にマッチした書き下ろし作品も制作することにしました。

「それまで手がけてきたなかで最も大きな仕事だったので、気合も入ったし、社長が大切にしている理念をしっかり受け止めようと思いました。それを作品のイメージに落としこんでいくうちに、眠りからさめた虫が地面の下で動き始めるーー『蠢』(うごめく)という文字が浮かんできたんです」

虫はやがて土から出て、大きく羽ばたいていくーーそんな思いを作品に込めることにしました。
3月初めのオープンに向けたタイトなスケジュールのなか、「蠢」をテーマに、大型作品1点と、抽象作品5点を一気に制作。個展で展示した新作もチョイスして、お店全体の世界観をまとめ上げました。

実際に、そのお店「焼き肉家 益市 堺町錦」に伺って、作品を体感してきました。

天地3メートルを超える大作「蠢」(うごめく)

天地3メートルを超える大作「蠢」(うごめく)

吹き抜けになっているエントランスホールで、強烈な存在感を放っています。

吹き抜けになっているエントランスホールで、迫力満点の存在感。

2階通路に飾られている連作。「蠢」の字を抽象化した「Image 蠢」。

2階通路に飾られている連作。「蠢」の字を抽象化した「Image 蠢」。

土のなかで躍動するエネルギーを間近に感じられます。 紙のベースだと劣化が早いので、木の板に下地を作って、その上に書いているそうです。

土のなかで躍動するエネルギーを間近に感じられます。
紙のベースだと劣化が早いので、木の板に下地を作って、その上に書いているそうです。

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書き下ろし作品の他は、当時の最新作『離・怠』シリーズから。「怠」の字をどんどん崩していき、"怠けることを戒める" ことがテーマになっています。

書き下ろし作品の他は、当時の最新作『離・怠』シリーズから。「怠」の字をどんどん崩していき、”怠けることを戒める” ことがテーマになっています。

それぞれのブース席にも『離・怠』シリーズの作品をチョイス。

それぞれのブース席にも『離・怠』シリーズの作品をチョイス。

さながら、お店全体がHILOKI作品の美術館のような感じですが、その世界観を感じていただけたでしょうか。
「益市 堺町錦」はオープン以来、連日予約で席が埋まるほどの人気店に。「この墨の作品はだれが書いたの?」といったお客さんの声は数多く寄せられていて、反響はとても大きいようです。

この「益市 堺町錦」での成功がきっかけで、今年4月に京都・祇園にオープンした「肉匠 益市GION」にも作品を提供。「作品の選定も全て一任されました。祇園という伝統ある街だからこそ、墨の作品で日本らしさを感じてもらえるように心がけました」とHILOKIさんは話します。

「肉匠 益市GION」は祇園の町屋らしい外観。

「肉匠 益市GION」は祇園の町屋らしい外観。

一歩中に入ると、モダンでゴージャスな空間。エントランスには2点で一対の作品「USHIO」が。

一歩中に入ると、モダンでゴージャスな空間。エントランスには2点で一対の作品「ushio」が。

1階レジブースの横に、書き下ろしの作品「匠」を設置。

1階レジブースの横に、書き下ろしの作品「匠」を設置。

全体的にサイズを抑えて空間にマッチさせつつ、ゴージャスな雰囲気のなかに「和」を演出しています。

全体的にサイズを抑えて空間にマッチさせつつ、ゴージャスな雰囲気のなかに「和」を演出しています。

2階に続く階段には、書き下ろし作品の「雪」「月」「花」。

2階に続く階段には、書き下ろし作品の「雪」「月」「花」。

2階通路の柱には「離・怠」シリーズの1点。

2階通路の柱には「離・怠」シリーズの1点。

HILOKIさんは作品をガラスケースに入れず、ほぼ全て「生」のままで提供しています。美術館やギャラリーで見るよりもっと身近に、墨の質感や凹凸、筆のダイナミックな動きを体験できるというわけです。

お店にとっては、アートの力でお客さんにとって居心地が良く、程よい刺激もある空間が演出でき、アーティストにとっても、多くのお客さんに作品を見てもらえるという、幸運なコラボレーション。そこで最も大切なのは、アートやビジネス以前の信頼関係だとHILOKIさんは考えています。

「今までやってきた展覧会やイベント、コラボーレーションはほとんど全て、人のつながりがきっかけだった。直接会って話して、思いを伝え合って、自分が必要とされているなら全力で応える。活動はまだまだこれからで、どんどん大きくしていきたいけれど、人とのつながりを一番大切にして、人間臭くやっていこうと思ってます(笑)」

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「人とのつながりが一番大切」と語るHILOKIさん。

今回の取材では現地・京都に赴いてお話を聞き、実際にお店の料理もいただくことができました。
ビジネスとアートは、本来であれば異なる価値観・世界観なわけですが、企業とアーティストが一つの思いを共有するとき、これまでにない独自の商品や、素晴らしい空間が生まれるという可能性を感じることができました。

お店の空間づくりを中心にご紹介しましたが、料理も本当に素晴らしいです。

お店の空間づくりを中心にご紹介しましたが、料理も本当に素晴らしいです。

■有限会社 益市
http://www.masuichi.jp/

■書家 HILOKI
http://www.hiloki.jp/


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佐藤勝

佐藤 勝Writer

ライター/編集者/何でも屋。Web、デザイン、映像、アート、観光などの記事執筆や、企業・団体のコンテンツ制作など、色々やらせていただいております。 INSPIでは、生活やビジネスに役立つものづくりの情報から、面白スポットやまちづくりまで、さまざまなテーマの記事をお届けします。
http://lamp-creative.com/

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