地域を元気にする「電子出版」が全国展開中ーー「Japan ebooks」
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こんにちは。先週の「国際電子出版EXPO」レポートに続き、電子出版の話題です。 電子書籍の作成や配信サービスなど、数ある展示ブースがあるなかで、まったく独自のビジネスモデルを提案しているところがありました。それが、宮崎南印刷さんの展開する「miyazaki ebooks」(ミヤザキイーブックス)。地域に特化した印刷物を電子書籍で発信し、地元を元気にしようという試みなのですが、宮崎を含む8の都道府県に同様の「●●eboks」があり、地域特化型の電子書籍ポータルサイトが大きく広がっています。
「miyazaki ebooks」は2012年4月にオープン。県や市町村などが発行する観光・グルメ・イベントといった情報冊子を電子書籍で掲載。誰でも無料で閲覧できます。これまで、こうした紙の冊子は県内の特定の場所でしか手に入らなかったのですが、電子書籍にすることで、宮崎を訪れる観光客はもちろん、地元の人にとっても情報を得やすくなる、というのがサービスの趣旨です。
電子書籍はPC以外にiPhone、iPad、Androidといったモバイル端末でも閲覧できるので、自分の旅行に役立ちそうなコンテンツをダウンロードして持ち歩くこともできます。ポータルサイトで紹介されている冊子は、県内ほぼ全域をカバー。さらにコンテンツを充実させるため、宮崎の登山誌「yo-ho(ヤッホー)」をはじめ、さまざまなオリジナルコンテンツも制作しています。
しかも、これらの自治体の印刷物の掲載は無料で引き受けているといいます。お話を聞かせていただいた「miyazaki ebooks」の松浦周一郎さんの話によると、無料掲載であれば自治体の担当者レベルでOKを出しやすいので、スムーズにコンテンツを増やすことができたそうですが、いったいどこで収益を確保するのでしょうか?
「確かに、電子書籍を載せるだけでは1円の利益も産みません(笑)。でも、電子書籍の掲載がきっかけで、ある自治体から過去の広報誌のデジタルアーカイブを制作する仕事をいただいたり、当サイトオリジナルの登山誌コンテンツの人気が高まり、登山を観光資源にしている自治体の印刷物として受注を獲得したりと、新たな収益を生む足がかりになっているのです」と松浦さん。
今年6月には、県の「起業支援型地域雇用創造事業」に採択され、補助金も受けられるようになったといいます。
地域の印刷会社というのは本来、地域の情報がたくさん集まるところ。そこが主体となって地域の情報を発信し、新たなニーズを掘り起こすために電子書籍を使う、というのは画期的なビジネスモデルだと思います。
同社ではさらに昨年から「あなたの県でもebooksを!」と、全国の地域の印刷会社に呼びかけており、それに呼応するように今年4月に香川県、奈良県で、6月に熊本県で「ebooks」がオープン。この7月以降も京都、富山、宮城、岡山でオープンが予定されています。地域の印刷会社が主役となって、地域の情報を発信していこう、というプロジェクトが全国に広がっているのです。
「miyazaki ebooks」では、電子書籍やポータルサイトの制作、運営のノウハウなどを提供し、各地の「ebooks」立ち上げをサポート。活動している地域が違うからこそ、お互いの情報や経験を積極的に交換し、一緒に地域の発展に貢献していこうという考えで、「Japan ebooks」という名前でサークルへの加盟を呼びかけています。
このビジネスモデルは全国の印刷関係者の注目を集めていて、松浦さんのところには各地の印刷会社からの問い合わせが絶えないそうです。
「『ぜひ、うちでもやってみたい』とお話があった際には、必ず宮崎まで来ていただいて、ポータルサイトの情報と地元の魅力を両方体験いただくようにしています。そうすると、ビジネスモデルへの理解も深まりますし、実際、来ていただいた皆さんのなかで『うちの地元ならこんなことができるかも!』といったアイデアが次々と生まれたりしますね」と松浦さん。
お話を伺った国際電子出版EXPOの期間中、「Japan ebooks」に加盟する各県の関係者が東京に集まり、経験交流会を開いたそうです。各地の「ebooks」を少し見てみましょう。
地域の特色を取り入れつつ、「Japan ebooks」として統一感のあるデザインになっています。これらの他に、さらに2つの「ebooks」がそれぞれオープンに向けて準備を進めているとのこと。
「今後は、例えばうどんつながりで香川と宮崎、というように、コンテンツづくりの面でもコラボレーションができたらいいなと思っています」と松浦さんは話します。
いま、退職者世代で国内旅行に出かける人びとのニーズを考えると、美味しい食事やお酒、温泉、レジャーはもちろんですが、もっとその土地を深く知りたいという知的好奇心もあるはずです。
これらの「ebooks」で得られる情報は、全国の書店で売られている旅行ガイドよりも詳しいものが多いですし、何より地元の人たちが書いて編集したものなので、地域の魅力が良く分かるし、信頼性も高い。きっと旅行のプランニングの段階から読んでもらえるはずです。
このモデルの場合、電子書籍は売り物ではなく、流通の制約を乗り超え、日本全国あるいは海外からでも地域の冊子を読んでもらえるようにするという手段に過ぎません。そのかわり、良質なコンテンツを増やし、きちんとサイトに集客する努力が必要になってきます。
電子出版が業界の注目を集めるなか、地元に根ざした印刷会社として地域に貢献しつつ、新たな収益を獲得するという「地方発」のビジネスモデルができたことは、さまざまな課題を抱える地方の印刷会社さんはもちろん、景気や雇用の回復に奮闘している地方の関係者の皆さんにとっても大きな希望となり得るのではないかと思います。
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