【詳細解説】渋谷駅で岡本太郎の大作「明日の神話」を鑑賞しよう
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こんにちは。最近はビジネスに役立つものづくり情報を発信している当ブログですが、たまにはアートのお話も。
昨年夏ごろの記事で、日本各地のパブリックアートについてご紹介しましたが、今回はそのなかで、東京・渋谷駅にある「明日の神話」(岡本太郎)をじっくり鑑賞してみます。たまには足を止めて作品と向き合い、過去や未来に思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。
「明日の神話」は、故・岡本太郎氏が1970年の大阪万博のために制作した「太陽の塔」(写真)と同時期に制作され、同氏の最高傑作のひとつと言われています。現在、JR線渋谷駅と京王井の頭線渋谷駅を結ぶ連絡通路(マークシティ内)に展示されています。
長さ30メートル、高さ5.5メートル。壮大なスケールの壁画ですが、立ち止まってじっくり見る人は多くありません。
この「明日の神話」は、メキシコで建築中のホテルから依頼を受けた岡本太郎氏が1968~69年の間に制作した作品でしたが、依頼主の経営状況が悪化したため、ホテルは未完成のまま放置され、納品された作品も行方不明に。
時は流れて2003年、メキシコシティ郊外の資材置き場に保管されていた「明日の神話」が発見されますが、30年以上放置されたため、大きなダメージを負っていました。
岡本太郎氏の長年のパートナーであった故・岡本敏子さんが中心となって壁画を修復するプロジェクトが始まり、各界の有志の協力や募金活動などのサポートを得て、発見から3年後の2006年に修復が完了。2008年11月に、ここ渋谷に恒久設置されたものです。
さっそく、「明日の神話」の細部を見てみましょう。
この作品は、原爆が炸裂するその瞬間を描いています。爆発の中心には、骸骨と炎のモチーフが描かれています。
岡本太郎氏はこの壁画の制作にあたって、何度も現地・メキシコに足を運んだそうですが、メキシコの祭礼では骸骨を飾る習慣があり、この禍々(まがまが)しいモチーフは「死と生は隣り合わせである」ことを語っているといいます。
間近で見ると、その骸骨が立体的に描かれていることが分かります。
爆心のすぐ下には、原爆の炎に焼かれる、無数の人びと。
画面の外へ外へと広がっていく、キノコ雲。悲劇の世界が広がっています。
壁画の右端には、無邪気に浮かぶ船のモチーフが。
これは、1954年にアメリカがビキニ環礁で行った核実験で死の灰をかぶった第五福竜丸を表しています。
絶望的な危機が迫ることも知らず、第五福竜丸がマグロを獲っているシーンを描いています。
画面の左端には、原爆がもたらす悲劇を乗り越え、朗らかに生を謳歌する人びとが描かれています。
生前の岡本敏子さんはこう語ります。
「原爆という残酷な力が炸裂するのと同じくらいの強烈さで、人間の誇りのちからが燃え上がっている。
画面全体が哄笑していて、悲劇に負けていない…その先にこそ『明日の神話』が生まれるのだ、という岡本太郎の痛切なメッセージが込められているのです」
2011年の東日本大震災で原発事故が発生し、深刻な事態が続いている現在。
今こそ、多くの人に見てもらいたい作品です。
「明日の神話」保全継承機構のWebサイトでは、作品の全体からディテールまでをブラウザ上で閲覧できるようになっています。
また、「明日の神話」再生プロジェクトのWebサイトでは、岡本敏子さんによる音声解説のファイル(mp3形式、2003年秋に行われたミュージアムトークを収録)を無料でダウンロードできます。
この音声ファイルを手持ちのスマートフォンや音楽プレイヤーに入れて、作品を実際に眺めながら解説を聞いてみてはいかがでしょう。
悲劇と混沌のなかに未来と希望が共存する世界観に、きっと何かを感じ取り、考えさせられるはずです。
普段から渋谷のこの場所を通る方も、出張や旅行で東京を訪れる方も、ぜひ一度、じっくり鑑賞していただければと思います。
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